文芸酒場 双月亭

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瑞穂文学賞提出作品『胡蝶の夢』

先日瑞穂文学賞に提出した新作、『胡蝶の夢』のWeb版です。
UO本への書写がまだ済んでいませんが、こちらに先行で掲載します。
UO本版に関しては、現在校正中です。
完成次第、双月亭の小説ベンダーや各イベントなどで販売していきます。

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【胡蝶の夢】

†The Dreaming Thing†   

鋭い突きが俺の頭上をかすめて行く。並の力量の戦士なら、いや、相当に優れた戦士でもあの突きをかわす事は難しいだろう。だが、俺は間一髪のところでかわす事が出来た。回避できた理由はただ一つ。あの突きを繰り出したのはまぎれもない、俺自身だからだ。

俺はその日、仲間達と後に「ツイステッドウィールド」と呼ばれる場所に来ていた。来た理由は何だったか。そうそう、確か酒場の親父が、『先の大地震の後、イルシェナーの奥地に恐ろしい怪物の住処が突如現れたらしい』と教えてくれたからだ。既に自分の数十倍も身の丈のあるドラゴンや禍々しい力を持つデーモンすらを倒していた俺達は、自分達の武勇を示す絶好の機会とばかりにイルシェナーへと向かった。
そこは親父の言う通り、これまでの危険が子供騙しだったと思わせる程恐ろしい場所だった。灼熱の砂地に足を取られ思うように動けず、不思議な歌で士気を奪われてしまう。そして、蝶のような怪物が仲間達とはぐれてしまった俺の目の前に現れたかと思うと、いきなり俺の姿へと変身した。それこそが今、俺が目の当たりにしている恐怖である。

最初は姿だけを模して襲い掛かってきたのだと思った。しかし、こいつは俺の何もかもを模しているようだ。先程かわした突きも俺の得意技の一つだし、わざと上段の振りを避けさせて足払いをしかける牽制も、俺の十八番だ。先刻などはそれに危うく引っ掛かる所だった。間違いない。この怪物は俺のすべてを完全に模している。俺はかなりの手練である事は自負しているし、その俺を完璧に模したこの敵は相当手ごわい敵である事は間違いないだろう。しかし、俺が本当に恐怖を感じたのはそこではなかった。怪物から立ち上る圧倒的な殺意。それがこれまで戦った、どの敵とも違っていたのだ。

生きる為の糧として人を襲う怪物。自らの縄張りに侵入してきた人間を戒める為に襲う動物。自らより劣る下等な生物を戯れに殺そうとする悪魔族。様々な生物が様々な理由で我々に戦いを挑んでくる。しかし、目の前の敵は違った。殺意はある。それも今までのどの敵にも劣るどころかむしろ圧倒的と言ってもよい位だ。にもかかわらず、何か異質なものを感じた。一体何なのだ。

そうか。あの怪物が「俺」である為には俺の存在はあってはならない存在だからだ。奴は俺の姿を奪った。その瞬間から奴は俺になろうとしているのだ。だからこそ、奴の目の前にいる俺の存在は絶対に認める訳には行かないのだ。
俺は俺しかいない。他のどこにも存在しない。にもかかわらず、今目の前に俺がいる。では、俺は何だ?目の前の俺が俺であるならば、俺はまがい物の存在という事になる。それは認める訳には行かない。俺はまぎれもなく俺だ。ベスパーの郊外で生まれ、15の時に家を出て、旅の傭兵団に入隊した。3年後には小隊長に抜擢された事も覚えてるし、その2年後には傭兵団を辞め、今の仲間達と旅をしながら冒険する事を決意した。はじめてドラゴンと一人で戦った時にわき腹を牙がかすめ、危うく命を落としかけた事も覚えてるし、酒場でかち合った連中と喧嘩になり、仲間と一緒に十数人を相手して、ボロボロになりながらも全員叩きのめした事も覚えてる。そして、その後に酒場の主人に修繕代を請求されて、せっかく稼いだその日の収穫が帳消しになった事も。この記憶はまがいものなんかには持ち得ない、俺が俺であるまぎれもない証じゃないか。
そう思った時、ふと頭を嫌なものがよぎった。

あの化け物は俺の色々なものを真似ていた。姿形だけにとどまらず俺の剣技や癖までも完璧に写し取っていた。もしこの場に仲間が帰ってきたとしても、俺と怪物とを正しく見極めて攻撃できるだろうか。俺ですら見間違えかねない相手を、いくら長年連れ添った仲間といえども区別できるだろうか。正直、怪しいと思う。
それだけ完璧に俺を模した奴が、もし俺の記憶を持って生まれてきたのだとしたら?奴は生まれた瞬間から俺と記憶や経験を同じくしている事になる。現在はこの瞬間しか存在しないのだから、過去はすべて記憶でしかない。では、その過去をすべて記憶として持って生まれてきたとしたら?
では、俺は何なのだ?もしかしたら、俺こそがあの化物で、あの化物だと思っているあいつこそが俺なのか?そんな馬鹿な。長年にわたって磨きをかけたこの技がすべてまがい物?勝利の喜びや仲間の死、辛い修行もすべて今この瞬間に作られた記憶なのか?背筋に冷たいものが走った。
いや、そんな訳あるはずがない。俺は俺のはずだ。あいつこそが偽者で俺が本物だ。そうだ。その為にも絶対にあいつを倒さなければならない。俺が俺である事を示す為にも、絶対にあの化物を倒さなければならないんだ。
既に俺も奴もかなりの傷を負っている。鎧もかなり破損し、既に身を守る機能はほとんど失われている。俺の技量を考えたら、次の攻撃が必殺の、そして最後の一撃になるはずだ。奴の渾身の一撃をかわして、こちらの攻撃で勝負を決めてやる。
そう思い俺が剣を構えなおすと、奴も全く同じ事を考えていたようで、剣を大上段に構えて俺めがけて一気に駆けてきた。一撃で敵を倒す、避けられたらおしまいの、俺の本当の奥の手だ。今までこの攻撃をかわした相手はいない。
ただし、それは俺以外が相手の話だ。俺ならばよけきれる。そして、ガラ空きの胴に必殺の突きをお見舞いしてやる。そう読んでいると予想通り、上段から大振りの一撃が俺の頭上に降ってきた。よし、今だ!俺は剣が髪の毛をかすめるのを感じながら、文字通り間一髪で避けきった。俺の勝ちだ!
しかし次の瞬間、俺が見たものは地面に倒れこむ奴の身体ではなく、俺の心臓に深くつきささる、投擲用の短剣だった。俺の胸元が真っ赤に染まり、身体中の力が抜けていき、地面に倒れ伏す。
馬鹿な、まさかあの攻撃すらフェイントだったとは…いやだ、死にたくない…俺が死んだら、あいつの次の狙いは仲間達か…いや、それともあいつは何食わぬ顔で俺の振りをするのか…砂地が俺の血で赤く染まっていく…いやだ、死にたくない…
俺は薄れ行く意識の中で、奴の顔を見上げた。奴もまた、まだ信じられないような表情を浮かべていた。
ああ、そうか…お前もまた、俺と…

戦士が戦いを終えた丁度その時、はぐれていた仲間達が彼に合流した。
「オーイ!大丈夫か!?その様子だとかなり激しい戦いだったようだな」
仲間の一人が彼の手当てをしながら、そう言った。
「ああ、目の前に蝶のような怪物が現れたかと思ったら、いきなり俺の姿に化けてな。俺と全く同じ戦い方で斬りかかってきたんだよ」
「ほう、お前がもう一人のお前と戦ってたのか。ソイツはかなりの強敵だったんだろうな」
「ああ。しかし、コイツと戦っていた時、俺はちょっと変な事を考えちまってな。苦戦したのは、それもあるかもしれない」
彼は傷の痛みのせいか、少し顔を歪めた。
「何を考えたんだい?」
「コイツの圧倒的な殺意を感じてな、思ったんだよ。『もしかしたら、俺が偽者でコイツが俺なんじゃないか』って。もちろん、俺の今までの記憶やお前達との思い出もある。でも、それを持って俺が生まれたんだとしたら?俺の記憶や過去も作り物だとしたら?じゃあ、俺とこの蝶との間にどれだけの違いがあるんだ?何もかも俺と同じなら、俺と蝶に違いはないんじゃないか、ってな」
「おい、お前…」
仲間が心配そうな面持ちで、彼を見た。

次の瞬間、彼は破顔した。
「ははは、大丈夫だよ。俺は本物だ。間違いない。仮に俺があの化物だったとしても、お前達が危ない時は絶対に駆けつけるよ。だから、安心して背中を預けてくれ」
「おいおい、驚かせるなよ。まったく、お前は理屈っぽくていけないよ」
「悪い悪い。さあ、先を急ごう。ここに留まっていても、危険なだけだ。それより早く、敵を倒そう」
彼はそう言うと、仲間と共に再びダンジョンの奥地へと向っていった。
既に物言わぬ亡骸と化した戦士の瞳には戦士と仲間達が映っていたが、彼等が先へと進んで行くに従いその姿は小さくなっていき、やがて何も映さなくなった。

Fin
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